私はただ、守りたかったのだ。

ささやかな幸せを。

 

 

 

 

 

 

だから、刀を握った。

 

 

 

 

 

人を斬るしか…

 

 

 

 

 

他の人の幸せを奪うことでしか、自分の小さな幸せを守れぬ、乱世の元で…。

 

 

 

 

 

 

 

剣一人敵

 ――水鏡に波紋――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「光秀様、蘭丸様、殿がお見えです。」

 

下女が障子の向こうで深々と礼をするのが映る。

のんびりと座していた光秀と蘭丸は顔を見合わせ微笑む。

 

「今日は随分と遅い刻限ですね。」

「ええ…。」

 

蘭丸はそう答えると、長い尺の愛刀を佩いて立ち上がり、庭先に向かう。

その表情は不思議と綻んでいる。

光秀もその後を追い、初夏の日差しに溢れる庭先に出た。

 

 

 

「蘭丸、光秀様。お早ようごさいます。」

、貴女が巳の刻(朝10時前後)に来るなど、珍しいこともありますね。」

 

光秀がそう声をかけると、と呼ばれたその人は少しだけ顔を朱に染める。

 

「お恥ずかしながら、柄に紐を巻き付けるのに手間取っていたら、

 いつの間にか時が過ぎていたのです。」

 

の脇差には、確かに新品で色の美しい紫苑の紐が巻きつけられていた。

 

「そうだったのですか…私はてっきり、父君に止められでもしたのかと。」

「いいえ。父上ももはや諦めておられるようです。

 我が姫君様のように美しく、聡明であられるのには私にとって難儀のようですから。」

 

そううそぶいて美麗に微笑む剣士・ …実は女性である。

 

出自は土岐家ゆかりの武家の姫君であり、光秀の遠縁に当たる。

稲葉山城の戦の後光秀・蘭丸と共に信長の臣下に下り、

光秀より坂本の地の一部を下賜された。

 

今は近江の浅井氏に嫁いだ小谷方(お市)の身辺警護を任されているのだが、

時々こうして馬を駆って、2人に剣の指南を仰ぎに来るのだ。

 

 

、今日はまず私が相手になりましょうか。」

「光秀様、私には勿体のうございます。」

 

は頭を振る。縁者とはいえ、光秀は惟任日向守、信長の側近でもある。

一階の剣士でしかないとは、身分の違いが大き過ぎるのだ。

 

「それではまるで私が不相応だと聞こえるのですが?

 は今だ私から一本取ったことがないというのに。」

「いえっ、そういう意味では…。」

 

蘭丸がそう言うので、慌てて否定する

すぐに朗らかな笑いが誰からともなく込み上げる。

 

 

 

結局、剣の稽古を始めたのは辰の刻が近づいてきた頃であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だいぶ上手くなってきた様ですね、。」

「勿体無いお言葉、有り難く存じます。」

 

少し遅めの昼食を取りながら、光秀はの剣の腕をそう称えた。

は至極真面目な顔で礼を述べる。

 

「しかし、蘭丸も譲りませんね。」

「勿論です。に負けているようでは信長様の護衛は務まりません。」

「まあ、私とて、小谷方から絶大な信頼を受けているんです。」

 

蘭丸の言葉に少々頬を膨らませて抗議する

いくら既に成人しているとはいえ、今だ幼い少女。

こういうくだけた場では、彼女の本来持っている純粋で素直な気質が見える。

 

「お市様…小谷方はいかがなされておいでだ?」

「お変わりなくいらっしゃいます。長政様との仲も睦まじくて。ただ…。」

「ただ?」

「お転婆なところは、私も少々困っております。」

 

3人はほぼ同時にはじけるように笑い出した。

部屋の入り口に控える者達も、その微笑ましい光景に心を和ませる。

 

 

近江坂本城には、斎藤家に味方していた時以前からの家臣も多くいる。

勿論、この3人の交流もよく知っている。

殺伐とした乱世の中、この3人の変わらぬ光景は、一時の安らぎとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「そうです、小谷方からあるものを授かってまいりました。」

 

膳が下げられ、まったりと過ごしていた時。がそんな事を言い出した。

は懐から袱紗を取りだし、丁寧に開く。

 

そこには、紫苑の紐が括り付けられた小さな斧があるだけだった。

 

 

しかし、それを見ただけで何を意図するか、二人はすぐに悟ってしまった。

 

 

…。」

「…私は、小谷方に仕える身。」

 

先ほどまで談笑していたの口調は既に消え失せ、1人の剣士となっていた。

 

「覚悟は…常にしておりました。斯様な世の中。いつ誰が敵になるやも分かりませぬ。

 …次は、戦場でお会いいたしましょう。」

 

 

 

すっと立ちあがり背を向け退出する

 

 

 

 

 

 

袱紗の中にある斧に括り付けたものとよく似た紫苑が、群青の袴に浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

言うまでもなく序章です。(苦笑)歴史なんでちょっと気合入れて設定を考えましたが、

かなり間違い多いはずです(汗)その辺はまあ…大目に見てください…はい。

さて、今回のお相手は光秀OR蘭丸です。ゲームと同じように分岐にしてみようと(笑)

ちなみに。ヒロインの持ってきた小さな斧は、自分で考えた隠語で、信長を指します。

詳しい事は今日の日記あたりにでも書きます。はい。

 

 2004・4・18 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

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