剣一人敵

 ――蹄鳴りて 時来たるを知る――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシャバシャと泥濘の地を1頭の馬が駆け抜けて行く。

馬の尾のように高く結わえた髪を揺らしながら、は刀を振るっていた。

 

右方に展開したの隊は、攻めあぐねていた。

狭い道から、織田方の兵士が次々とやってくるため、切り伏せても沸いて来る様で

キリがない状態なのだ。自然、兵たちの士気も下がり始める。

 

 

 

それでも、は引き下がれなかった。

 

 

 

 

「怯むな!!進撃を続けよ!」

 

白刃を高々と掲げ、は再び大軍に突き進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「阿蘭…どうやら長政付きの一番隊が動き始めたようだぞ?」

 

織田の本陣で悠然と構えるは、総大将織田信長。

警戒を怠ることなく側についている小姓に声をかける。

 

小姓…森蘭丸は表情を変えず、ただ前を見据えて主の声に答える。

 

 

「…その様ですね。」

「気になるか?」

 

すっ、と怜悧な顔を主に向け、蘭丸は静かに話す。

 

「この戦、始まりより既に我らに分があります。何を気になる事がございましょうか。」

「フン…まあよかろう。…そのようにつれないところも、うぬの可愛さよ。」

 

信長は手を蘭丸の顔に伸ばすが、蘭丸は半身引き下がり、黙り込む。

その様子を愉快そうに見ながら、

 

「阿蘭。うぬは本陣より出でて、を迎え討つが良い。」

 

思ってもいなかった主の命に、蘭丸は目を見開く。

すぐに表情を戻した蘭丸は冷静に進言する。

 

「それはなりませぬ。私には信長をお守りせよとの…命が下っております。」

「光秀の…な。」

 

含み笑いをする信長を、ただ黙って見つめる蘭丸。

 

「のう、阿蘭。うぬの真心はどちらにあるのだ?真にわしを守ろうと思うておるか…

 それとも、に情をかけておるか…。」

 

互いの目線が合う。2人とも、譲ろうとはしない、意思のある瞳。

 

 

 

沈黙を破ったのは、信長のほうだった。

 

 

 

 

「…阿蘭、うぬはと共入りをしたのか?」

「っ…!?信長様、何を…!!」

 

突然下世話な事を尋ねられ、蘭丸の顔が朱を佩く。

様子を見た信長は愉快そうに声を上げて笑う。

 

「なかろうな、いくら好いた女子とはいえ、も武士。まして阿蘭はわしの小姓…。

 今更共入りも出来まいて。」

 

屈辱ではあるが、蘭丸は反抗する事が出来ない。

ただ黙ってその言葉を受けるだけである。

 

「…総大将として、阿蘭。そなたに命ずる。

 

 

 

 

 

 … を捕らえ、本陣まで連れてくるがよい。」

 

 

 

 

 

泥濘の地にためらいなく跪き、蘭丸は短く「はっ」とだけ答え、本陣を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酒井 忠次殿!!いざ、勝負―――!!」

殿!!?」

 

ガキッ、とお互いの刀が鍔を捉える。

 

「戻ってまいられよ、殿!今ならまだ間に合いまする!」

「それはならないのです…酒井殿。私は…――武士です!」

 

気迫で酒井の刀を弾く。よろめいたところを見逃さず、鎧に一撃を食らわせる。

 

「ぐぅ…!!」

「貴方様も…武士ならばお分かりでしょう…酒井殿。」

「…分かっておる…しかし、殿は希望であったのだ…我らの。」

「…希望?」

 

刀を構え直すが、お互い戦いたくはない。

 

たとえ一時とはいえ、味方として自分の背中を預けた武士。

 

この戦には、そういった武士達が多く存在していた。

だからだろうか。こんな会話をし始めたのは。

 

 

「明智殿と、森のご子息殿と、殿…この乱世に揺るがされることのない、

 

 我らの『希望』であった。」

 

 

それを聞いて、は苦い顔をする。

 

とて、好きでこの戦に参戦しているわけではない。

できることならば、避けて通りたい『道』であった。

 

 

「…それでも…私は、この道を選んだのです…

 剣は一人の敵…分かっています…ですが、私は武士…剣以外に何もないのです!!!」

 

 

 

ガキィッ!

 

 

相手の刀を薙ぎ払ったのに、には思いもよらない手応えが伝わる。

 

 

 

 

 

「…このような太刀筋では、見切ってくれと言っているようなものだよ、。」

 

 

 

 

至極真面目な表情でいつものように語るのは、

 

誰よりも逢いたくて、誰よりも逢いたくなかった相手。

 

 

 

「っ…蘭丸…!?」

 

 

作戦はこれで成功した。

自分は本来、蘭丸をおびき寄せるための隊なのだから。

 

 

「…、戻りなさい。」

「蘭丸、貴方ならそれが出来ると言うの?」

 

剣を交えたまま、起伏のない口調でお互い喋る。

 

「…出来ないでしょうね。でも、貴女が死ぬことを誰も望みません。」

「それは蘭丸とて同じでしょう。…それに、戦の中で命潰える事こそ武士の誇り。

 私に武士の誇りを捨てろと?」

「…そうだと言ったら?」

 

拮抗した力が弾け、お互いによろめく。

しかし2人は躊躇うことなく、すぐに体勢を立て直し向かい合う。

 

「ならば私は、蘭丸を斬り捨て、我が命を散らしてでも…我が主君を守るのみ。」

 

どこか遠い意識の中で口走らなければ、自分が壊れてしまいそうな言葉を紡ぐ。

蘭丸はその顔に何も映さず、

 

「よいでしょう。…相手になりましょう、。」

 

 

 

泥濘が、馬の蹄の音を消す。

 

 

降りしきる雨の音と、うねる川の音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それらが全て消えた瞬間、2人は同時に動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

蘭丸編第2話でございます。何やら進みが悪い気もしないでもなく…(汗)

今回の見所は信長ですねぇ。まーた蘭丸ちゃんにちょっかいかけちゃってますヨ、

このセクハラ親父は(爆)でもゲーム内でも、蘭丸がなびいてるワケじゃないので良し。

むしろ明智に…ゲフン。何かガキくさいんだよなぁ…こっちの方。(死)

 2004・5・4 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

 

 

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