剣一人敵

  ―――焔雨に消え 紫煙の慟哭をす―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酷く耳障りな音が雨の中を切り裂いていった。

 

「なっ…!?」

 

の刀が、無残にも真ん中から折れた。

ただの鉄辺となったそれはの頬を掠めて飛んでいった。

 

手入れを怠っていたわけではない。

 

むしろ日々我が子のように念入りに手入れをしてきた愛刀。

それを易々折るという、蘭丸の剣技が素晴らしいのだ。

 

「…戦場では、剣の稽古と違う。手加減はしません。」

 

冷ややかな武士としての目を向ける蘭丸に、は潔く膝を折る。

雨粒とは違った色の雫が、自分の頬から零れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「森 蘭丸殿。…介錯人をお願い致します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

の隊から、ざわめきが起こる。

だが、それよりももっと動揺を走らせたのは蘭丸の一言だった。

 

 

 

「我らが総大将、織田 信長公の命により、森 蘭丸が申し渡します。

  …貴方は私と共に本陣へ赴き、信長公の命に従って頂きます。」

 

 

どよめきを制止させたのは、酷く冷静なの言葉であった。

 

「…私に人質になれと仰せなのですか?

 私ごときの存在で、小谷方や長政様が揺れ動くとでもお思いで?」

 

緊迫した空気の中、まるでそこだけ切り取られたような時間が流れる。

平然と会話をする二人ではあるが、その心は計れない。

 

「…私の知りうるところにない質問です。私は、ただ命を受けて動いているのみです。」

「…そうですね。我らは武士。主人に剣を貸す事のみ使命ですから。」

 

相手に向けたのか、己に向けたのか。

どちらとも取れる言葉を口にして、は伝令に伝える。

 

隊、森蘭丸軍により壊滅、将は退却…だ。」

「……はっ。」

 

蘭丸も、同じように伝令に伝える。

 

「森蘭丸、と共に只今より本陣に馳せ参ず。

 それから…退却する隊の者どもは、逃がしてやる事。深追いは禁物、と。」

 

それぞれの伝令が散っていったところで、蘭丸はの傍に寄る。

 

「ある程度、測れていたはずでしょう、。」

「…測れていたとしても…。」

 

ふう、と息をついて

 

「私は武士です。主の為に刀を振るい、主の為に死にゆく事が使命だと…。」

「…愚問だったようだね。」

 

何故か、微笑みを交わす今が不思議でならなかった。

 

 

 

戦場の真っ只中。

 

どうして、ここまで自分たちは落ち付いていられるのだろうと。

 

 

 

『武士だから』

 

 

 

 

その言葉に逃げているのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「森蘭丸、只今戻りました。」

 

本陣につくと蘭丸は膝を折り、幕の向こうにいる人物へそう声をかける。

幕の向こうには、信長公がいる。

かつての主君でもあった、敵軍の総大将…織田信長公。

 

「入るが良い。」

 

さほど大きな声を出さなくとも凛と響く声は、まさに覇王といって相応しい貫禄があった。

仕えていた頃は、名を呼ばれてこれほどまでに誇らしく思う声もないものだが、

 

 

「久しいのう、。」

 

敵軍の将として会う今では、その声が恐ろしい魔王の声に聞こえる。

 

「阿蘭、うぬには褒美を後に与えよう。」

「…有り難き、幸せに御座います。」

 

声は平坦であるものの、その心の内には複雑な思いが去来しているのであろう。

平伏した後、なかなか顔が上がらない。

 

「…信長殿。私を連れてきていかがなさるおつもりですか。

 敗軍の将をお眺めになられて、優越感に浸りたい…そうお考えなのですか?」

 

がキッと挑戦的に睨むと護衛兵の幾人かが殺気を帯びた反応をするが、

それを信長は目だけで制止させる。

 

「そうだといったら、うぬはどうするのだ。」

「死にます。この場で、舌を噛んででも。」

 

きっぱりと言い放つに、信長は低く笑う。

 

「滑稽な事を申すな、…。」

 

すばやい動きで、が反応する前に信長は相手の顎を持ち上げる。

 

「…うぬは死なせぬ。生も、死も…我が掌中に収めて見せようぞ…。」

 

そして、隣にいた蘭丸を凍りつかせ、本人を地に叩きつける信長の一言が下る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぬは、わしの小姓となるが良い…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

ザ☆難産(苦笑)光秀さんとストーリーはリンクしつつも何となくかぶらないように配慮

しつつ…となかなか難しいこのシリーズ。やっと蘭丸編完成です。

最近戦国に敏感になっていてテレビでもすぐ反応する…。(爆)さて、小姓になるヒロイン

はどうなっちゃうのでしょう…私も分からない!(マテ)続き頑張るぉ〜☆

 2004・6・20 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

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