剣一人敵

  ――発現するは闇 永遠の刹那――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寝所に呼ばれた私達は、言葉を交わすことなく控えていた。

 

本来夜伽の役割で寝所に二人呼ばれる事はない。

 

では、信長は何の目的で蘭丸と…私を呼んだのか。

 

 

 

 

 

天下の「空け者」は、空を掴まんとするような考えを持っているのではないだろうか。

 

 

 

 

「何を堅くなっておるのだ、うぬらは。」

「…信長様のお寝間にはべる事、これ至上の光栄にて。」

 

皮肉めいた響きを持って、私は慇懃に相手に答える。

隣に控えた蘭丸の空気が張りつめたが、信長は愉快そうな表情を崩す事はなかった。

 

「くっ…うぬはわしを飽きさせんな…。」

「勿体無いお言葉…。」

「…お蘭。…うぬはわしが言わんとしている事が気になっているようだな。」

 

ちらっ、と蘭丸のほうへ目を向ける。

いつもの通り涼やかな横顔。

とても表情の変化を読み取れるとは思えない。けれど、

 

「はい。…一体、なぜ私とが二人、寝間に呼ばれるのか…です。」

「やはりな。うぬなら聞くと思うておった。」

 

もったいぶるように信長は脇息に肘をついて、濁酒を呷る。

 

「話は実に簡単だ。…ただ、いきなり話しては面白くなかろう。

 ひとまず、飲むがいい。戦中ゆえ清酒ではないが、酒がないよりましであろう。」

 

侍女が何も言わず盃を持ってくる。

蘭丸は濁酒の注がれた盃を見つめてから、すっとそれを手に取った…ように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、美しく丹に塗られた盃は宙を舞い、濁酒を床の間に散らしながら

乾いた音を立てて転がった。

 

 

「…蘭丸…!?」

「…どういうおつもりですか。はべらせる訳でもなく私達二人を呼び、

 酒を酌み交わさせるつもりで毒を仕込んだり…。」

「!」

 

キッと見据えるその目には、金色に光りそうな気迫が漂っていた。

信長も愉快そうな表情をしたまま、どこか強大な空気を纏う。

 

「賢いな、お蘭。だがそれに入っているのは毒ではない。」

「毒では…ない?」

「そうだ。それは薬師に頼んで特別に調合させた“淫薬”だ。」

「…!?」

 

思ってもいない信長の言葉に、蘭丸が大きく目を見開き驚く。

 

「どうして…一体何をお考えなのです、信長様。近頃…信長様のお心が見えません。

 先の戦においても、兵を見捨てるような布陣をなさったり…。

 信長様の望みは、一体…!?」

「お蘭。うぬは今の事に言及したいのではないようだな。」

「それは…っ。」

 

苦々しげに蘭丸は唇を噛む。

信長は楽しげに肩を揺らす。

ただ、二人の遣り取りを見ているだけのは、じっと自分の前にある酒を見つめた。

 

「信長様。…貴方様はもしや、私と蘭丸を契らせようと思ったのですか。」

 

信長が笑うのを止め、ゆっくりとのほうを向くと、ぱちりと扇子を鳴らした。

 

「ほう…さすがだな。なかなか鋭い所を突きおる。才知、武に長けた女将、とは

 よう言ったものよ。」

「…しかし、私は貴方様の考えまでは分かりません。」

 

まるで戦場にいるかのようにきりっとした声で言い、信長の言葉を待つ。

 

「…くっくっ……望むは…更なる混沌…。」

 

その言い方や纏う気は…余りに禍禍しく、ぞくりと背中が震えた。

 

第六天魔王…

 

そう自分を称する信長の纏う気は、まさに魔王のそれだった。

 

「なぜ、私と蘭丸が契る事で、混沌が生まれるというのですか。」

「そなた自身の心に聞くがよい。」

 

信長はわかっているのだ。

私が今だ、小谷方に忠誠を誓っていて……反逆の芽を育てている事を。

そして、秘められた私の想い……蘭丸に心惹かれてしまっている事を。

 

「興ざめてしまった以上、事実は出来ぬな。

 

 

 

 

 …うぬらに命ずる。…契った事として、三日の夜に祝いを行う。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

望んでもいない最高の幸せは、思いがけない時にやってきて私を苦しめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

うわー、なんか大変な事に…!こうなる予定ではなかったはずなのに…(笑)

やはり話が勝手に走っていくー(笑)信長さんは何やらかなり企んでるね〜。

というか、蘭丸とヒロインちゃんは結婚しちゃうんですか!?(お前が聞くな)

とりあえず完結を目指して(…)頑張ります(笑)

 

 2005・4・2 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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