あのお方の妹君に仕えてより、平和な日々が続いていた。


 


戦はあるにしろ援軍を少々派遣するのみで、その任務もせずに戦に決着がついたりもした。


 


 


 


 


 


 


 


私は、武士でありながら…平和な日々に漬かり過ぎていたのだ。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


剣一人敵


  ―――永久の闇に乱るる鈍光―――


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


…私は、生れ落ちてより今まで。


我が家を興さんと、尽力してきたつもりであった。


 


 


女である事を捨て、武士として。


 


 


ただ家のためにのみ生き、戦場で死ぬ事こそ私の大儀だと。


 


 


それなのに、私は武士としていかにあるべきかを忘れていたのだ。


 


 


 


平和な日々に溺れ…


 


甘い感情に心奪われ…


 


 


 


 


 


 


これは、その報いなのやも知れない。


 


 


 


 


 


ならばこの罰は、受けて然るべきもの。


だが…。


 


 


 


 


私は、どうあれ武士である事を捨てられぬ…。


 


 


 


 


 


剣しか持ってはいないのだ。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


「信長様…何をお考えなのです。」


 


 


開口一番にそう尋ねたのは蘭丸のほうであった。


低く抑えた声は、内に秘める感情を逆に際立たせる。


 


 


「美しい顔を歪めるでない、阿蘭。


 …はうぬには敵わぬが、女子にしては十分過ぎるほどの才知と剣の腕を持っておる。


 わしが飼ってやろうというのだ。ありがたいことであろう?」


 


「…恐れながら申し上げます、信長様。殿は我が明智家の遠縁…。


 しかしながら名を馳せた武士がいるわけではございません。


 それを殿は一人で支えてこられた。女の身で…。それを小姓にするなどといっては、


 彼女の家ごとお取り潰しになられるのと同じにございます。」


 


 


光秀は、我ながらよくもこう詭弁が述べられることだ、と心の中で歯噛みする。


 


単に彼女が自分の主の小姓などになるのが…嫌なのだ。


 


 


 


 


小姓は小間使いであり、身の回りの世話をはじめとする一切の事をこなす。


 


また、夜伽の相手をすることも多い。


 


は女性であるがゆえに、夜伽の相手として呼ばれることは火を見るより明らかである。


 


 


 


 


「光秀、わしはあやつを助けたのだ。本来ならばわしの面前に来た所で


 即刻首を刎ねていただろうのぅ…。だが、それには惜しい人物。


 


 武士としても……女子としてもな…。」


 


 


側女に酒を注がせ、それを呷る。至極愉快そうな笑みを見せて、


 


「其方らのよく知るところであろう?


 そもそも、わしは気の強い女子は嫌いではない。」


 


喉の奥を鳴らすような笑いに、二人は苦みばしった表情を浮かべる。


 


戦友、親友、家族……そういえるほどの深い仲であった二人にとって、


が小姓になるということは歓迎しがたい事項なのだ。


 


 


 


 


それは、信長もよく知っているところ。


 


 


 


 


何故にそこまでの仕打ちをするのか。二人は真意を測りかねていた。


 


 


 


 


 


 


だが、わからない中で出した結論には、双方で食い違いがあった。


 


それは濁流となり、それぞれに違う海に流れ込む。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


さながら、後の歴史が大きく動いて行くのを暗示させるように…。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


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後足掻き


またも統合編…みたいになっちゃいますので、読みにくいと思いますがスイマセン…。


でも一応ココで、くっきりとした序章を挿入したかったんです。はい。


信長さんが随分悪役に書かれてます…ね。自分が嫌いだからというのは無い…と思う。


お相手が光秀と蘭丸だからだよ!多分!(言い訳臭いとか言わないでください。)


 


 2004・8・9 月堂 亜泉 捧


 


 


 

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