あの大きくて暖かな掌は、もう、ない。

 

それでも。

あの人が散したこの地に、まだ温もりがある気がして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

受け継いだもの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと瞼を開き、天井を見る。

ゼクセに居た頃と似た内装をしていても、最初のうちは寝つけなかった。

今では、慣れた風景にそっと顔が綻ぶ。

 

「クリス様、お目覚めですか?」

 

ドアの外から従者の声が聞こえる。

私はゆっくりと身を起こし、簡単に身支度を整える。

 

「ああ。入っていいぞ、ルイス。」

 

小柄な従者が軽い朝食を持って入ってくる。

 

「失礼します。おはようございます、クリス様。」

「おはよう。」

「…クリス様?…何かいい事でもあったのですか?」

 

小首を傾げて尋ねてくる従者に、ふと顔が綻ぶ。

 

「ああ…夢を見たんだ。何年振りだろうか…―――父上の夢だ。」

 

少しだけ、ルイスの顔が哀しげな色を見せる。

 

「…私は、正しい道を選んできた。今もその考えは変わらない。

 だが…別の道を歩んでいたならば…もっと違う今もあったのだろうか…。」

 

口に出してから首を振り、打ち消す。

右手を翳すと、そこに淡く浮かび上がる水色の紋章。

 

「これが最良だったのだ。そして、父上の選んだ道も…。」

 

拳を握って、甲冑を着込む。

朝の気温にそれは酷く冷たく、全身が凍ってしまうようだった。

 

「ルイス、私は少し出かける。馬の用意を頼む。」

「え、は、はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここでいいか…。」

 

適当な場所へ馬の手綱を括りつけ、地下道へ入る。

迷いもせず中を歩く。

そこは、あれほどまでに苦しみ、憎んだリザードクランが掘った『高速路』。

この場所に、彼の果てていった地がある。

 

 

「…ふぅ。」

 

大きな扉の前で妙に緊張している自分を嘲笑して、ゆっくりと中へ踏み込む。

 

崩れ落ちた太古の遺跡。

かろうじて原型を留めている、といったところだ。

 

しかし、残っている物を見る限りでは相当な技術力が窺い知れる。

 

「…寒い。」

 

徐々に奥へ行くにつれて、寒さが増してくる。

無理もない。

真の水の紋章が暴発を起こした結果、この奥は随分経った今でも凍り付いているのだから。

 

かちゃかちゃと甲冑の音とは別の、颯爽とした足音が後ろから聞こえた。

思わず剣を身構えて振り返る。

 

「クリスさんっ。」

 

やってきた影が発した声に、ふっと力を抜く。

 

「ヒューゴ。どうしてここに居るんだ。」

「…えっと…『あの日』からちょうど1月だから、何となく気になって…。

 そう言うクリスさんは?」

 

そうか…もう1月経ったのか。

だからこそ、無意識のうちに考えて昔の夢など見たのか…。

 

「私は、何となく気が向いたのだ。…呼ばれたのかもしれないな。」

 

どちらからともなしに歩き出し、ゆっくり奥へと向かう。

 

床も、柱も凍りつき、気温が低くなってきた。

そのとき、ヒューゴが口を開く。

 

「ジンバ…自分の昔の事について、何も話してくれなかったけどさ。

 …きっと、1日だって忘れた事はなかったよ。」

「…ああ。」

 

甲冑の中に忍ばせているペンタグラムの存在を意識しながら、話に耳を傾ける。

 

「クリスさん…知らないと思うけど、ジンバは自分の甲冑をいつも磨いてたんだ。

 ルースが鉄の匂いを嫌うから、ってわざわざ外に出て…。

 俺、鉄頭の奴らの甲冑なんか、どうして磨くんだよって思ってたけど…何かさ。

 凄い大切なんだなって事は、俺にも分かった。」

 

ぽつりぽつりと話を聞いているうちに、最深部に来た。

そこには当然の事ながら何もなく、ただ凍りついた世界が広がるだけだった。

 

「ジンバ。…来たよ。」

 

ヒューゴはすっと座り込んで、何もない床を撫でる。

くるりと振り返り、私を手招きするヒューゴに従い、私もその場に座り込む。

 

「…父上…。」

 

最期に握った、大好きな父の手。

 

 

あの大きくて暖かな掌は、もう、ない。

それでも。

あの人が散したこの地に、まだ温もりがある気がして。

 

私はその床をずっと触っていた。

 

「…今朝方、父上の夢を見ました…今までの夢は全て、顔がぼやけていたのに。

 今朝ばかりは、はっきりと……。」

 

 

 

ぽたり。

 

 

 

近頃は涙を忘れていた瞳から、雫が落ちる。

 

「クリスさん…。」

「…すまない、ヒューゴ。少しだけ…向こうを向いていてはくれないか?」

「…うん。分かった…。」

 

 

ぱたり、ぽたり。

 

1度堰を切ってしまった涙は、そう易々と止まってくれそうにない。

こんなに泣くなど、いつぶりだろうか。

 

 

不意に、背中に重みが加わる。

ヒューゴが、背中合わせに座っているのだ。

 

「…おかしなものだな。グラスランド人とは相容れぬと…思っていたのに。」

「…それは、オレだってそうだよ。鉄頭となんて、って思ってたけど…さ。

 平和を願うのは、同じ…だからさ。きっと、道が重なったんだよ。

 ジンバは…きっとそれが分かってたんだ。だから…。」

「ああ…そうだな…。」

 

 

しばらく、二人でそこにいた。

 

 

すっかり身体は冷えきって、テレポートで帰った後はすぐに風呂へ行った。

 

 

それでも、心が暖かかった。

 

 

 

二人で居たから…か?

 

 

 

 

 

 

 

 

========================================

後足掻き

自分はヒューゴ×クリス派。王道ですよね。二人がラストにハグするシーンで、

「よっしゃ来たー!」みたいな。(笑)この話はまだ全然恋愛ぽくないですね。

「×」というより「+」みたいな。「&」とか。でも、ジンバさんこんなに話されてんのに

さっぱり関係ない辺り…(汗)ついでに自分の娘とカラヤ村長の息子が目の前(?)で

いちゃこいてますし!(爆)次はもうちょいいちゃいちゃさせたい(笑)

 2004・6・14 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送