「えっ…オレが、ですか?」
「ええ、お願いしますよ、南君。」
Unforeseen
「ペア組んで、ストレッチ終わり次第乱打ーっ。」
部長になって、二度目の大きな大会。
新人戦の時よりもはるかに大きなプレッシャーが、オレにのしかかってきた。
「南?」
「…ん?どうした?」
「それはこっちの台詞だ。大丈夫か、ボーっとして。」
「ああ…大丈夫。それに、今からへばってるわけに行かないからな。」
そう、オレがへばっているわけにはいかない。
部長なんだから、みんなを引っ張っていけるようにならなければ…。
「あーっ☆お帰り♪」
「…なんでいるんだよ、…。」
従兄妹で、向かいの家に住んでいる 。
よく訪ねに来ては、大騒ぎをして帰っていく。
でも、オレはそんな時間も嫌いじゃなかった。
明るくていつも元気なのは、俺の…好きな人の姿だから。
「何でって、お夕飯に招待されたから来たんですよー。」
「あら健、お帰りなさい。今日はコロッケなのよ。着替えてお手伝いしてくれるかしら?」
「…うん、分かった。」
複雑…。
好きな人に逢えるのは嬉しい。
でも、落ち込んでいるときには、来て欲しくない。
『伴田先生。何ですか?オレに用事って…。』
穏やかな笑顔を浮かべながら、伴田先生はお茶を差し出し、腰掛けるように促した。
『実はですね、南君に頼みたいことがあるんですよ。』
『あ…はい。俺に出来ることなら…。』
『あのですね、南君に是非、部長になって欲しいんですよ。』
『えっ…?』
俺は驚いた。
部長の職は、俺に回ってくるものではないと思っていたから。
『あの…オレなんかより千石のほうが成績も残してますし…。千石のやつ、断ったんですか?』
オレはてっきりそうだと思っていた。でも、先生は首を横に振って
『…私は、南君の方がより適任だと思ったんですよ。私を信じて、引き受けてくれませんかね?』
『……分かりました。出来る限り、精一杯努めさせていただきたいと思います。』
『ええ…その返事を待っていましたよ。お願いしますよ、南君。』
「…はぁ…。」
部長の職が辛いわけでもない。
ただ…。まだ、「本当にオレでいいのか」っていう気がある。
「おばちゃん、これもう出していい?」
「ええ。そっちの器に移し変えて。」
キッチンには、母親との姿。
こうしてみていると、なんだか親子みたいに見える。
「あっ、健太郎ー。見て見て!これ私が作ったの!」
が見せたのは、綺麗に盛り付けられたポテトサラダ。
「味見して、味見。」
「…ん。美味いよ。」
「ホント??」
「ホントだって。」
「わー、やった☆これで健太郎も元気になる?」
「え?」
「だって、疲れてるんでしょ?元気なさそうだったから。」
意外だった。
いつものとおりただ遊びに来ただけだと思っていたから。
なんだかむずがゆくて、母さんの手伝いをし始める。
うぬぼれても、いいんだろうか…これって。
「ご馳走さま。」
「あっ、待って健太郎!」
席を立って部屋へ帰ろうとした俺を引っ張って止めたのは。
「部屋行っていい?」
「えっ……いいけど。」
無防備過ぎる…。とは思いつつ、断れない俺がいる。
この、のまっすぐな目を見ていると特に。
「…で、何か用があるんだろう?」
「あ、分かっちゃった?」
「分かるよ。は単純だからね。」
「すいませんねー、分かりやすい子で。」
「で、用は?」
尋ねると、は俯いて指をいじり始める。
が、上手い言葉が見つからなくて困っているときの癖だ。
それが分かっているからこそ、俺は急かしたりせず、が言葉を見つけるまで待った。
「あの…さ。」
「うん。」
「健太郎はさ、もっと自分に自信を持っていいんだよ?」
「え?」
「千石君がいるから、負い目を感じてるんでしょ?…私はテニスの事よく分からないけど、
上手いからって偉いわけじゃなくてさ…。ああ…もう、なんて言ったらいいんだろ。」
「…。」
「だから、えっと、つまり。健太郎にはテニス部をまとめる力があるんだよ。でも、
だからって全部背負い込むことはないよ。みんながいるんだし…。
私も、いるんだから。」
目頭が熱くなる。
今まで凝り固まっていた不安や、疑心がすべて、消えた印のように。
「…ありがとう。」
「うん。…健太郎…私は…健太郎のこと、誰よりも思ってるから。」
「…そんな事言うと、うぬぼれるぞ。」
「…いいよ。」
「よし、乱打終わったら試合形式で練習!」
ぽん、と肩を叩くのは、東方。
「どうした?妙にすっきりした顔してるじゃないか。」
「ん?ああ…まあ、な。」
「いつでも、私は一緒にいるよ。それを忘れないで。…健太郎が、好きだからね。」
「俺も、が好きだから。いつも、一緒にいて欲しい。」
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後足掻き
南です。うわぁ…なんかダメだ。書き始めはのりのりだったのに…。アンソロ読んで思い
ついたんですけどね。彼は絶対部長になるべくして部長になったと思うんです。部長は
千石じゃ絶対務まらないと思いますもん。だから書いてみました。じゃあべつに
ドリムじゃなくても良くない?って言うのはいいっこなしなし。苦情大覚悟(汗)
2003・7・18 月堂 亜泉 捧
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