練習を怠らないこと。

日々努力すること

己の力をわきまえ自惚れず、

己の力を磨く。

それが、俺のすべき全て。

 

 

 

…だった。

 

 

 

横顔

 

 

 

 

 

「手塚、毎日そんな切り詰めてて楽しい?」

 

そんな事を聞いてきたのは、彼女が初めてだった。

 

 

 

三年間ずっと青学男子テニス部のマネージャーをしているが、

本人のテニスの腕も相当なものである。

 

「切り詰めているつもりはないが。…なぜ、そんな事を?」

「いやあ、何となくね。別に辛くないならいいんだけど。」

 

不思議な人だ。

 

それが俺の感想だ。は、俺の中でそう認知されていた。が。

いつからだっただろうか。

 

彼女の横顔が、急に眩しく見えるようになったのは。

 

 

 

ああ……。

 

 

あの日から、だ……。

 

 

 

 

 

「手塚!」

 

切れたガットが容赦なく襲い、手からはぼたぼたと血が零れた。

 

「ああっ、ヒドイやこれは!止血!止血!!救急箱、早く!!」

 

手際よく手当てをしてゆく。その手際の良さには竜崎先生も舌を巻くほどだ。

 

「私も怪我なんてしょっちゅうだったからね。もう馴れちゃったのよ。」

 

そういう彼女は、怪我でテニスを辞めた。

今も多少は出来るものの、公式戦などではプレイできない。

 

先生などからの期待も厚く、テニスが大好きな彼女は、どれほど辛かっただろう。

 

俺が怪我をした時。

歯痒くて、早く治れといつも思った。

少々無理をしてでも、コートに立ちたかった。

 

 

 

だが、それを絶たれた瞬間の彼女は、どれほど……。

 

 

 

 

翌日。

コートに入ろうとした俺のジャージを思いっきり掴んだのは、だった。

 

「手塚国光君!君に一週間の部活禁止令がでました!これはやぶっちゃだめだよっ!?」

 

小柄な体が仁王立ちしてそう告げる。

 

もう血も止まった。

 

痛みくらいはテーピングで抑えられる。

 

大会まで時間もない俺は、相当焦っていたんだと思う。

 

 

…。」

「変更は受け付けないよ?どうせ、『平気だからせめても三日でいい』とか言い出す

 んでしょ。」

 

言葉に詰まる。なんでこんなに勘が鋭いのだろうか。

おそらく、彼女も怪我をした身として、今の俺の気持ちがよく分かるのだろう。

 

「あのねぇ、手塚?練習するばかりが上手くなるコツじゃないよ?怪我を治癒する

 ことだって大切だし、その間に色々な事を振り返れるもの。上手く休めば、

 休むことも、きっと力になるよ。」

 

 

何だか、肩の荷がおりた感じだ。

ささくれだっていた気持ちが、治って行く。

 

の怪我のことについては、今まで詳しい事を聞こうとはしなかった。

だが、は自分から話しはじめた。

部室近くのベンチに腰掛け、

 

「私はね、親からの遺伝で元から、足が弱かったのよ。でね、そのリハビリ…って

 言ってはなんだけど、足を鍛えようと思ってね。

 いつのまにか私は足の鍛錬のためじゃなくて、純粋にテニスが好きになっていったわ。

 強いボールを打ち返した時、緑のコートを縦横無尽に駆け抜ける時。

 全てが、私をわくわくさせたわ。…でもね。スポーツはどんなに気をつけていても、

 怪我をしてしまうものなのよ。」

 

俺は自分の右手に視線を落とす。

 

丁寧に包帯の巻かれた手は、今だ疼く。

 

果たして…傷が、疼いているのか…?

 

「私は足を故障したの。でも、近くに大会が迫っていたわ。

 レギュラーは逃したくなかった。だから無理して練習を続けた。

 …そうしたら、大会の試合の時…。」

 

 

 

 

 

 

アキレス腱が……切れたの。

 

 

 

 

 

 

苦々しく俺に伝えた

 

 

アキレス腱を切ると、運動能力は格段に落ちる。

前までのように運動は出来ない事が多い。

アキレス腱を切り、涙を飲んで引退したスポーツ選手は数多いる。

 

「あの時、焦らずに休んでいれば…。そう思ったら、悔しくて…。

 手塚には、そんな苦しみは背負わせたくないよ。

 こんな後悔…誰にもして欲しくない。私は、テニスが好きだし…。

 テニスが好きな人も、好きだから……。」

 

彼女の瞳からは、大粒の涙が。

俺はその涙を、いつのまにか拭ってやっていた。

右手の包帯が濡れる。

 

 

でも、もうそんな事は気にならなかった。

 

 

…。」

「あはは…吹っ切ったつもりだったのにね。まだ、未練はあったみたい。

 だけど、マネージャーとしてでも、テニスに携ってるし。大丈夫だよ。」

 

 

 

部室の壁に映る影が、夕暮れにあわせてだんだん濃く染まる。

彼女の哀しみを飛ばす様に、風が吹く。

 

 

 

 

俺は、心の中に芽生えた新たな感情を…。

 

 

 

 

 

君の横顔を見て、自覚する。

 

 

 

 

 

今しばらくは、告げないでおこう。

 

 

 

空を見上げると、赤く染まった雲が、ゆっくりと流れていった…。

 

 

 

 

 

 

―――FIN―――

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

あははー、何したいんだろう…。

こじつけ臭さ満点(誤字でなく)ですね。これもヴォーカルCDが元ネタです。

怪我はしてませんけど私もテニスを引退しました経験あり(汗)

いろいろと痛いです…うん、色々と。でもテニスは好きですよ?はい。

ウインブルドン毎年欠かさず見るし…。(笑)

 2002・11・11改  月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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