この奇妙な同居生活。

 

人に説明しろって方が難しい。

 

ややこしいから友人には「従兄弟同士だ」って言ってあるけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、幕が上がる

 

 

 

 

 

 

 

「隆介、そろそろ学校行く時間じゃねぇの?」

「ふえ?あっ!本当だ!!ちょっ…まだ髪セットしてねーしっ!!」

「あと10分で終わるなら、俺が仕事場行く前に送ってってやるぞ。」

「う〜…終わらせてみせる!だから送ってけよ、蒼也!」

「へいへい。」

 

 

俺は高間 隆介(タカマ リュウスケ)。今年17になる。

身長は並、ルックスはちょいと幼い…のがコンプレックス。

趣味はインテリアデザインと料理。主婦っぽいって言われるが…ほっとけ。

 

「朝そんなにわめくなよな。二日酔いの頭に響くんだよ。」

 

こいつは浅野 蒼也(アサノ ソウヤ)。今年23になる美容師。

身長もルックスも申し分なくいい男。しかも美容師なんて職業柄、

女が常に周りにいる状態。本人はウザがっている(くそ…)

趣味はスカッシュ。俺にはどんなものか分からないけど、ハードなスポーツらしい。

 

で、だ。

苗字が違うって所が引っかかるはず。

 

親戚…

兄弟。

 

 

まあ、ニアミス?

 

 

蒼也は俺の姉さん、高間 知菜(タカマ チナ)の婚約者だった。

 

 

 

でも、俺の姉さんは…

 

 

 

「じゃあ、姉さん、行って来る。留守番頼むぜ?」

「はぁい♪任せて頂戴。あ、でも生身で鈍感の人とは戦えないかも〜。

 あと、蒼也さんに安全運転頼むのよ?私みたいにぽっくりは困るから☆」

「…うーい。」

 

一年半前、横断歩道を歩いていたところ酔っ払いの暴走トラックに

轢かれてあっけなくこの世を去ってしまった…と思いきや。

幽霊となって、この家に住んで(憑いて?)いる。

 

なぜか昔から霊系統が見えてしまう俺は、こうして姉さんと会話もできる。

 

蒼也は姉さんの姿も声も聞こえないけど、

「姉さんが蒼也と暮らしたがってる」って言うのを信じてくれて、

こうして一緒に住んでいるんだ。

 

 

でももちろん、姉さんの事を世間に言ったら白い目後ろ指モノだし、

信じてもらえるわけがない。

俺の両親は早くに死んでいないから、後見人状態で蒼也がいる。

 

もしかすると、義理の弟である俺のそんな事情を考えてくれたのかもしれない。

 

 

 

 

 

「知菜への挨拶は済ませたのか?」

「おう!今日も明るく元気だったぞ。」

「幽霊に元気もなにもあるのかよ…。」

 

窓を開けてタバコを吸いながら緩やかに車を発進させる。

蒼也のハンドルを握る左手の薬指には指輪の日焼けだけが残っている。

 

「いつか…風化しちまうのかな…。」

「あ?」

「何でもない。」

 

時は刻々と過ぎていて、俺の回りも慌しくなっている。

 

 

それなのに、なぜか俺だけが止まっている様な気がして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、隆介!」

「…んー。」

 

全力の笑顔で挨拶してきた友人をスルーして、俺は自分の席につく。

 

「ねー、隆ちゃーん、無視はぁ酷くない?(イントネーション↑)」

「うるせーな、小原。つか、その口調は何だ、気持ち悪い。」

 

高校からの付き合いで、一緒にバカな事を散々やっている小原 賢(オバラ ケン)。

調子のいい奴でムードメーカー。で、今はしなを作っている。

 

「私を気持ち悪いって!チョ〜むかつくんですけど〜。」

「いやいや、確かに気持ち悪いぞ、賢。」

 

わざと真面目な口調でツッコミを入れたのは、羽山 裕幸(ハヤマ ヒロユキ)

大丈夫かって思うほど超優秀で学年トップ。でも、冗談も分かる奴。

 

「というか、元気がないな、隆介。何かあったのか?」

「いんや、別に。特に何がって訳でもねーんだけど。」

「おやおや、もしや隆ちゃんてば…ふふふ、溜まってんのか?」

 

小原の爆弾発言に思わずせき込む。

 

「ぐっ、げほっ!ゴホッ…な、何を突然バカな事朝っぱらから…」

「まーまー照れるな。そうだよなぁ、あんな美人なねーちゃん亡くして、

 その上彼女無し、同棲してんのは従兄弟…まあかっちょいいけど…男だし?

 しかもその従兄弟はモテモテで女の人連れまわせる感じで〜…。

 そりゃ隆介も年頃のオトコノコだもんな〜?」

 

うんうん、と一人納得したように頷いている小原を延髄切りでしばらく黙らせ、

俺は羽山の方に向き直る。

 

「なぁ、羽山。俺ってさ、どっか変わったところないか?」

「は?突然だな。」

「いいから。」

 

俺の問いに羽山は口元に手を持っていき少し考える素振りをした後、ああ、と

思いついて口を開く。

 

「そうだな、前よりも自分の感情を出さなくなったな。」

「え?」

「前は今日みたいに沈んでいた時も、何がムカツクからどうこうって、聞いても

 居ないのに自分からベラベラ喋っていたけど…。最近はそれがないな。」

 

そうかな…自覚はしていなかったけどな…。

 

まだまだ表情に出るからよく蒼也に「ガキだな」ってバカにされているのに。

 

「俺達や、前々から付き合っているやつらなら何があったかは大体分かるけど…。

 そうじゃない奴らは読み取りづらくなってるかもな。

 ほら、最近先生に呼び出し食らう回数減ってるだろ?」

「あー…まぁ…。」

「上手く怒りを抑えてる様に見えるから、先生にも目つけられてないんだ。」

「そうそう、何か浅野さんに似てきたよな?」

 

いつの間にか復活していた小原が横から茶々を入れてくる。

 

「そうかもしれないな。」

「だろ?やっぱ一緒に住んでると影響受けるんじゃねーの?」

「…蒼也に…か。」

 

小さく首を傾げてから、俺は思わず苦笑する。

 

「いい傾向じゃないと思うけどな…蒼也、大していい性格じゃねーぞ?

 いいカオしといてその裏じゃ悪態つきまくりだし…。」

「それは大人の狡賢さってトコだよ。本心は気を許すとこでしか言わないんだろ?」

「世渡り上手そうだな、あの人。」

 

二人が口々に勝手な事を言う。

確かに一時期、俺も蒼也みたいな大人になりたいって思った。でも、1年も暮してると

流石に相手の嫌な部分も全部見えてきて…。

 

そうなると、微妙に夢が持てないって言うか、何というか。

 

姉さんはそれも全部含めて愛していたって言うんだから、それは凄いよな〜…。

 

俺にもいつか、そんな風に自分の全てを賭けて愛せる人が現れるんだろうか。

 

 

………今のところ一切想像できないな。

 

 

 

今まで、俺も男だし何度か人を好きになった事はあるし、付き合った事もある。

でも、結局キス止まりで別れる事が多かった。

本気じゃなかったわけじゃない。でも、何故か長く付き合っても2年が限度だった。

 

 

そういう意味では、俺は本当に人を愛する、って事をまだ知らないのかもしれない。

 

 

 

 

そう考えると、少し姉さんが羨ましかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「高間君、こっちにそれ運んで〜。」

「へいへ〜い。」

 

俺は今、演劇部に所属している。

本当は家庭部とかに入りたかったんだけど…。

 

しゃきっと返事しやがれッ!

ぐはあっ!

「せせっ、先輩ッ、飛び蹴りは危険ですよッ!?」

「気合注入よ。」

 

この幼馴染、橘 美乃里(タチバナ ミノリ)のおかげで、無理やり入部させられた。

入部したからにはそこそこやるけど、美乃里の気合には負ける…。

演劇命、って言っても過言じゃないかもしれない情熱注いでるからな…。

 

「隆介、あんたは発声もう一回やり直し。」

「はぁっ!?」

「腐抜けてるんだもの。裏方も出演者の一人なんだからね?

 ちゃんと自覚してもらわなくちゃ。さ、外周から行ってらっしゃ〜い。」

 

にっこりと爽やかな笑みを浮かべてひらひらと手を振る美乃里。

 

「ちくしょ〜っ!」

 

悔しいが、美乃里には弱みをたくさん握られてしまっている。

大人しく従わないと、幼稚園からの恥ずかしい思い出やらを根こそぎ暴露される。

そ、それだけは絶対阻止しないと…。

 

「…くっそ〜…美乃里のやつ…。部長権限使い過ぎだ…。」

 

俺がブチブチ文句を言いながら体育館の周りを走っていると、

隣接した道路に見なれた車がすっとやってきた。

 

「あれ…?蒼也?」

「ん?隆介か。」

「どうしてここに?今日は仕事なんじゃなかった?」

「ああ。半休貰って来た。」

 

愛車に寄りかかって煙草に火をつけゆっくり吸い込んで吐き出す。

その様子が妙に絵になるから、近くのグラウンドから女子達の視線が注がれる。

 

「珍しいな、蒼也が自分から休み取るなんて。身体の調子でも悪いのか?」

「いや、単に女の客でムカツク奴が居てな…。付き合えってウゼェから逃げて来た。」

「…サイデスカ。」

 

ったく、なんでこうも嫌味なんだ、こいつは!?

 

「で、そういうお前は何やってンだ?」

「俺?…部活中。ウォーミング終えて今戻るところ。」

「…罰ゲーム?」

「う、うるせっ!」

「お、図星。」

 

けたけたとさも可笑しそうに笑う蒼也。

毎日毎日こんだけからかわれてるんだ、これなんか序の口な方かもしれない。

 

「とにかく、俺は戻るからな。」

「じゃあ俺も行こうかな。」

「はぁっ!?」

「どんな風な活動してんのか気になってな。ちょっと覗きに。」

 

俺はてっきり嫌がらせの冗談かと思ったら、本気でついてきやがった。

 

 

マジで何考えてるんだ、こいつ!?

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

で、やっぱり校内に入っても、蒼也は注目の的。

美形って何もしなくてもそれだけで得している気がするぜ…。

 

「懐かしいな、俺もここで活動してたんだぜ?散々練習したしな…。」

 

蒼也がここの学校出身だって事は知っていたけど、部活までは聞いた事なかった。

 

「へぇ、大方バスケ部かなんかでキャーキャー言われてたんだろうよ。」

 

俺がわざと尖った口調で言ってやっても蒼也に効いたためしがない。

ところが今日は少しだけ、蒼也の反応が違っていた。

 

「キャーキャー…ね。言われたらブチ切れて舞台から飛び蹴り食らわしてたな。」

 

 

え…?舞台?

 

 

バスケ部は舞台なんか使わないし…まさか。

 

放置してあった俺の台本を手に取ると、蒼也は颯爽と舞台に上って本読みをし始めた。

 

 

「このご時世、俺だけが苦労しているわけじゃないって分かっている。

 でも、この苦しみを誰一人、分かっちゃくれない…一緒に苦しむ相手はもう居ない!」

 

今回の話は戦争がテーマで、ちょっと重い。

主人公は、空襲でたった一人の肉親である双子の姉を亡くした少年。

 

「…一緒に苦しむんじゃないわ、一緒に生き抜かなくちゃならないのよ、

 その苦しみを忘れず…でも、希望は捨てずに!」

 

部長である美乃里は、その少年を励ます少女の役。

突然の事にもすぐ順応して、自分の台詞をすらすらっと言う。

台詞覚えの早い美乃里は、もう本を持ってはいない。

 

「…へぇ、結構いい役者も居るんだな。うちの代の部長よかしっかりしてる。」

 

台本を閉じて、珍しく嫌味の無い満足そうな笑みを浮かべる。

俺は何がなんだかわからなくてテンパり中だ。

 

「そ、蒼也?」

「隆介には言って無かったか。俺、ここの演劇部OBなんだわ。

 ついでに、この脚本は俺らの代のヤツが書いた本。」

「なっ…なんだって!!?」

 

俺はもう目が飛び出るって言うか腰が抜けるって言うか…

 

とにかく最大級ビックリした。

 

蒼也が演劇なんてしてるわけないと…むしろ考えもつかなかった。

 

「じゃあ先輩なんですね。私が現部長の橘美乃里です。」

「ああ、君か。隆介の幼馴染って。なかなかの演技するんだな。ただ言い終わった後

 目線をすぐ外す癖と語尾が不明瞭なのは弱点だな。」

 

美乃里が良く顧問に指摘される事を、たったあれだけの台詞で見ぬいてしまった。

そうなりゃ演劇バカの美乃里はすっかり尊敬の眼差しだ。

 

…でも。

 

「もしよかったら暇な時にでも来てアドバイスしてくださいよ。」

「あー、まぁたまになら。ただ、顧問の先生の許可は取らないとならねぇだろ。顧問誰?」

「勢田先生です。」

「え、セタっちまだいんの?かぁー、長いね。

 セタっちなら久々だし挨拶がてら俺が話つけてくる。職員室の場所変わってねーよな?」

 

…セットも何も無い舞台の上で。

照明も音響も無いのに。

 

目を離せない、惹きつけられるあの様子。

 

俺にだって、凄いって言うのがたった一言で分かった。

 

「オイ、隆介。」

「え?えあっ、な、何、蒼也。」

「さっさと練習して来い、裏方。」

 

 

頭を小突かれ、痛ぇなあと文句を言う俺の言葉は自分でも分かるぐらい覇気が無くて。

 

 

 

俺はただ、あの時の。

 

 

 

初めて見た舞台上に居る蒼也の輝くような演技を、思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つづく

 

 

  

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後足掻き

オリジナルBL小説、第1話をお送りしました。ひんじょーに最初はBL要素少ないです。

しかもこの小説、何故か女性陣がつわものです(笑)まず主人公の姉、知菜。穏やかに

天国になんて逝きません(笑)そして幼馴染の美乃里。凄く自分テイスト入ってます。

演技力は美乃里が断然上ですが(汗)演劇にかける情熱は高校時代の自分並ですね。

2話では隆介’s友人が頑張ってくれると思いまス。小原&羽山コンビはお気にです。

 

 2007・4・20 結城 麻紀 捧

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