財閥解体より数十年。

しかしながら今再び、大企業が財閥化しているのが実情である。

そんな財閥家の一つ、神凪家。

 

「…十夜さん!お帰りになられたなら当主にあいさつするのが嫡子の務めですよ。」

 

長年勤めている乳母が、部屋に戻っていた少年を見て驚きの声と窘めの言葉を出す。

 

「俺は帰ってきたわけじゃない。それに跡目は継がないと言ってる。

 俺よりよほど素行のいい分家の息子にゆずったらどうだ?」

「そうはいきません。神凪家の嫡子としてお生まれになった以上、

 それは逃れられぬ運命です。」

 

十夜は小さく肩を竦めてから相手を鋭い目で見つめ、厳しい口調で言葉を紡ぐ。

 

「馬鹿馬鹿しい。近親婚を繰り返して出来るのが何かわかってるだろう。

 どんどんと濃くなる血は優秀な面が強化されるのは確かだ。その代わり、

 血筋を絶やす大きな弱点も生む。

 …それを分かっていながら、現代社会でまだ続ける愚かな家の嫡子になってたまるか。」

「ならば、十夜さんがご当主になって、それを変えればよろしいだけの事。

 高校を卒業したら跡目を継ぐというお約束です。」

 

埒があかないと踏んだのか、十夜は小さくため息をついてから真剣な表情で相手を向き、

ごく短いセンテンスで相手に衝撃を放った。

 

「俺は大学に進学する。」

「何を…。」

「美術大学に推薦、一般入試試験を受ける。今日受験届けを提出してきた。」

「美術大学!?なりません、今すぐ撤回してきてください。」

「無駄だ。この時間にはもう処理されてる。…今日はそれをいいにきただけだ。

 あんたらの言いなりになんてなるか。俺は傀儡として生きるつもりはない。」

「…。」

 

家政婦が黙ったのを機に、十夜は戸口へと向かう。

ドアノブに手をかけて止まり、振り向かずに淡々と告げた。

 

「ここには帰ってこない。2度と…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずいぶん思い切ったな。十夜。」

「一朔…。」

 

車のボンネットに腰掛け、小さく笑う美丈夫。

十夜の従兄、結城 一朔(ゆうき かずさ)は十夜にこう話しかけた。

 

「悪くないな?俺が跡目を継ぐのにいいって言ってくれて。」

「何盗み聞いてるのかなぁ…大体、一朔だって真っ平だと思ってるんでしょ?」

「まぁな。それから、一朔お兄さんと呼びなさい。」

「はいはい。」

 

クスクスとシニカルに笑うと、十夜は車に乗り込む。

運転席に乗り込んだ一朔はエンジンをかけながら煙草をふかす。

 

「しかし、口調は元に戻るんだな。」

「元、って?」

「家を飛び出した当時の口調にさ。…なるほど、自覚してなかったみたいだな。」

「…緊張、したのかもねぇ。俺らしくもないけど。」

「お前の思ってる自分らしさはどうか知らないけど、少なくとも俺の知ってる

 神凪 十夜って奴は、ナイーブで自己犠牲的、なイメージ。なんだよな。

 繊細さを求める芸術家にはいいんじゃねー?」

「言ってくれるねぇ…俺は、そんなになよなよしてるかなぁ。」

 

窓を少し開けて、冷たくなってきた風が髪を玩ぶ。

 

「朔十から聞いたぜ…お前、例の人を見つけたんだろ?」

「え?…あぁ。…一生を捧げてもいいと思える、最愛の人…ね。それにしても、

 妙に耳が早いねぇ、一朔…?迂闊に朔十に知られたら、みんな兄に報告されちゃうな。」

 

髪を掻き上げながら薄く微笑むと、座席を倒して伸びをする。

一朔は紫煙をゆっくり吐いてくゆらせ、相手をちらりと見る。

 

「俺も、朔十も。お前の重責を抱えてやる事が出来なかった。神凪の嫡子として…

 望まぬ環境に放り込まれてたお前をな。

 分家の人間だから、とか…生ぬるい問題じゃなくて…お前が苦しんでいるのを、

 助けられなかった。だから、お前には幸せになってもらいたいんだよ。」

 

相手の真剣な様子に目を見張り、その後ふっと表情を緩める。

 

「アリガトね、一朔。朔十も…。

 大丈夫。5年くらい経ったら、愛しの人を隣に、超有名画家として世界に名を馳せる

 予定だからねぇ♪何なら今のうちからサイン貰っとく?」

「ははっ、それもいいかもな。」

 

確実に毅くなった従弟の姿に、一朔は小さく、気付かれないように微笑みながら

車を走らせた。

 

 

夕闇の帷が降りる街のキャンバスに、ゆっくりと筆を走らせるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

神凪十夜クンは鬼畜美形攻の代表格です。(え)私の趣味に一番近い彼。(笑)

金持ちですが教育等厳しく、彼の夢である画家の道はないんで、中2に家出しました。

そこからぐれちゃったのかな…?でも実は凄くイイ子。繊細だし。

で、実は仲間内で人気の漢(笑)一朔さん。そしてその弟朔十はまた今度書く…予定。

この3人でしりとりが出来るという謎な関連付けが。朔十は実のところ、

自分が書くオリジナルの主人公の名でもあります。同じ名前だけど性格全然違う…。

今度そちらの話も公開予定。…後書きが宣伝みたい。(爆)

 

 2004・12・13 月堂 亜泉 捧

 

 

 

 

 

 

 

 

  

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