僕は生まれた。
主となる人の住む家にある庭の片隅。
うつりにけりな…
「わぁっ、月下美人が花をつけてるっ!」
はしゃいだ声。僕をそっと撫でる小さく優しい指。
「決めた!俺の式にしてあげるからね?いつでも咲いていられるように♪」
あれから、もう15年。小さかった主も24歳になっていた。
「本当なら僕は枯れているんだよな…」
そう思うと、何だか色々複雑だった。
「ユエ、何を感慨に浸っておるのじゃ」
「ソル。別に関係ないだろ。」
ソルは主へ1番最初に仕えた式神で、向日葵の化身でもある。
「相変わらず素直でないのう。まぁそれもユエらしさか。」
「うるっさいなぁ。」
「ユエの事じゃ。あのまま刹那的に咲いて枯れ行く方が良かったとでも思うておるじゃろう。」
「っ…。」
「確かに、それが吾が植物としての性じゃ。吾子を残し、散り行くが定め。
しかし、ユエも吾もそれ以外の定めがあったが故にこうして存在しておる。」
濃い蜂蜜色の髪を風になびかせながら、ソルは小さく微笑む。
「理屈で言えばね。」
「ほう…いつもは理屈っぽいユエにそう言われるとは思わなんだ。随分感傷的じゃな。」
余裕というよりからかうようなニヤニヤ顔に何となく苛立つ。
「だいたい、結城家の護りはどうしたのさ。」
「勿論万事抜かり無く。吾を何と思うておる。ユエこそ、役目を終えたと言うに何故戻らぬ?」
「別に…経過を見てるだけだよ。主人に呼ばれればいつでも戻れるし。」
僕の返事にソルは何か思案して、またあのニヤニヤとした苛立つ顔をする。
「ユエにも心に留まる御仁が現れたと言う事か。ふむふむ、うららか…よのぅ。」
「なっ…!?何を勘違いしてるのかわかんないけど、暇だから見ているだけだからねっ」
「何を動揺しておるのだ。可愛い奴め。」
楽しそうに笑いながらソルが顔を近寄せてくる。
明らかにその動きは唇を狙っていて…
「んなっ、ばっ、やめろっての!こんの色魔!」
「あまりに反抗的ゆえ、吾の支配欲を刺激するから悪いのじゃ」
「言い訳するな!」
拳を相手の脇腹に叩き込み、息を吐く。
「全く…不快な思いをさせないでくれない?僕はあんたみたいに誰にでも触れさせる訳じゃないんだから。」
「それは吾が迫ったからではあるまい?その時に浮かんだ顔が意外な者だったからであろう?」
「っ…るっさい!さっさと任務に帰りなよっ!」
僕が怒鳴っても楽しそうにして身を翻し、結城家の方へ光となって飛んで行く。
「全く…失礼な奴。」
苛々としながら僕は外を見る。ソルが言うように、あの時思い浮かんだ人物は全く思ってもない奴だった。
「何であんな奴を思い出さなきゃならないのさ…。」
唇に生々しい感覚を思い出し、ごしごしと手の甲で擦る。
「…僕に触れていいのは…決めた人だけなのに。」
何故、こんなにも鼓動が跳ねるのか。
なんだか不快だから、相手に会って文句を言ってやらないと。
会って文句を言えばきっと…このもやもやも晴れるだろうから。
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後足掻き
自分としては珍しいツンデレキャラなユエ。ユエ=月で月下美人。安直です。
ソルも対として居るので安直ですね〜。ソルは男女どちらにでもなれる
真のバイです(笑)一朔らとの絡みも書きたいなぁ…(笑)
2009・2・20 結城 麻紀 捧
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