日差しが暖かくて、ついうとうとまどろむ。

その夢は、いまいち覚えていない。

 

 

現実のほうがよほど、夢みたいだったからかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

なかば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お客さん、終点つきましたよ。起きてください。」

 

運転手の声が人気の無いバスの中に響く。

 

「んあ?…やーべぇ、また寝過ごしちまったぜ…。」

 

目をこすりながらゆっくりとたちあがる。

今日は副部長の目をかいくぐって、今年最大の注目校の一つ、氷帝学園の偵察にと

バスに乗り込んだはいいものの、すっかり寝過ごしちまった。

 

「お客さん!」

「ん?」

 

てっきり俺を起こしてるのかと思ったら、前方にまだ客がいたらしい。

運転手が肩をゆすって起こそうとしている。

 

「ん〜…。あれぇ?ココってどの辺?」

 

席からすっくと立ったのは、女子だった。

ふわふわとした色素の薄い髪に、細く白い手足。

 

着ている制服が、どっかで見たことあるんだけど…。

 

 

「ありゃぁ…また乗り過ごしちゃったよ…こっから氷帝学園までだから…」

 

あ、そうか。あの制服氷帝学園のか。

ん?

じゃああの娘についてけばいいんじゃないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、そこの人。」

 

バスを降りてきた彼女に話しかける。

少しずれたタイミングで、

 

「え?私のコト?」

 

と返事が返ってきた。

 

「そ。アンタ、氷帝学園の生徒だろ?ちょっと学校まで案内してくんない?」

「いいよ〜。」

「おっ、マジで!へへ。よろしくっ。俺、立海大付属中2年の切原 赤也な。」

「私は、氷帝学園2年、芥川 。」

 

芥川…。

さっきから引っかかってたのってコレか。

 

「ちょっと待て、芥川ってアンタ、もしかして、一個上に兄貴がいる?」

「うん。芥川慈郎って言うんだけど。ひょっとしてお兄と知り合いなの?

 ラケットバック持ってるってことはぁ、テニス仲間?」

「んー、ま、そんなとこだな。」

 

適当に答えを返すと、彼女は納得したらしい。

 

「あー、だからお兄はよく立海行くのかなぁ…へぇ〜。」

 

くるくると俺の周りを回ってじっと観察する。

 

「何?」

「君って強いの?」

 

小首を傾げて聞いてくる様は、まるで小動物のようだと思いながら、

俺は自信満々に答える。

 

「まあね。」

「お兄も強いよ〜。」

「でも、俺の方が強いぜ?」

「まぁいいんだけど。じゃ行こうか〜。」

 

思った反応が返ってこないから、俺はちょっと拍子抜けした。

喋り方もおっとりで、話が少しずつずれている。

一際目立つ美人ってわけでもないけど、どこか目を引く暖かな面立ち。

 

少なくとも、俺の周りにはいなかったタイプだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、ここの角を曲がって…あれ?こっちだね、うん…。」

「おいおい、大丈夫かよ?」

「大丈夫大丈夫。氷帝の敷地内に入っちゃえば案内板があるから。」

 

それまではこの頼りないガイドってことか?

まあ、無いよりゃましか。

 

「ねえねえ、テニスって楽しい?」

 

突然、そんな事を聞いてくる。

 

「ま、愉しいかな。」

「そうかぁ〜…。いいなあ。お兄とか見てても思うんだけどね、

 テニスに打ち込んでる時ってみんな凄く生き生きしてるんだよね。

 あそこまで夢中になれるものがあるって羨ましいんだ〜。」

 

のほほんと、変わらない口調で話すけど、どこか寂しささえ感じる。

 

 

不思議と…目が離せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、幼稚舎の方に出ちゃったか〜…。えっと、こっちに行けば中等部だから。」

 

毎日こんな調子なんだろうか…。

いつも副部長には「遅刻魔」だって言われてっけど、まだマシなほうじゃねーの?俺…。

 

「あ、でもテニスコートに出るなら近いかも〜。」

「なあなあ、ちゃんってテニスしたこと無いの?」

 

ふと聞いてみたくなって、前を行くふわふわ頭に声をかける。

 

「うん?お兄とちょっとだけしかしたことないよ。だからルールも全然わかんない。」

「そうなのか。今度俺が教えてやろうか?」

「ホント!?わ〜、楽しそう!絶対、教えてね。約束だよ!」

 

細くて、少しでも力を入れれば折れてしまいそうな小指を、俺の小指に絡ませる。

 

「ゆっびきりげんまんウソついたらはりせんぼんの〜ますっ、指切った!」

 

ぶんぶんと手を振りながら、嬉しそうに指切りをする。

 

無邪気で、全く人を疑わない。

そんな姿が、ひどく眩しく映る。

 

 

「ねえちゃん?」

「ん〜、なあに?」

「今日は…サンキュ。」

「あははは、どしたの突然。それにまだコートに着いてないのに。」

「一応ね。」

 

いつもより、優しい気持ちだから。

言いたくなった、本当の気持ちの欠片。

 

「うわぁっ!?」

 

派手な音がして、目の前からちゃんの姿が消える。

 

「ん?ん〜…あっれ〜?じゃん。どうしたの?」

 

茂みに転がるひよこ…じゃない。

ちゃんの兄、芥川さんが寝てたんだ。

 

「お兄!立海のテニス部の人が来てるよ〜。」

「えっ!?マジマジ!?丸井くん?」

「違うよ〜?」

 

何となく間の抜けた会話をしているところへ、俺の携帯が鳴る。

 

「もしもし?」

『あっ!やっと繋がった!赤也、お前どこほっつき歩いてんだよ!』

「丸井先輩!?」

『真田が戻ってくるって言うからから早く帰って来いよっ、何ならジャッカルを

 アッシーに寄越すからよ。』

 

後ろで抗議の声が聞こえる。俺はクッ、と笑って、

 

「分かりました。すぐに戻るっス。」

 

俺は電話を切って、

 

ちゃん、俺急用で帰るからさ。これ、携帯番号。後でいっぺん電話ちょうだい。

 テニス教える日、決めたいから。」

「あ、うん!じゃまたね、赤也くん!」

 

 

 

偵察は出来なかったけど、それ以上の収穫。

 

大切だと思えるかもしれない人を、見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後足掻き

ヤバ…最高にだめだ…(撲殺)赤也のドリです。いい子の赤也だからね!あくまでも。

ヒロインはジロの妹です。ジロに妹いたらいいなぁ、とか思ってファンブック見たら、

いるじゃありませんか。いただきです(笑)。アニ版の赤也は悪い子なので本誌系で。

ヒロインがかなり鈍そうですね。それにしても酷い出来だな…(泣)。捨てたい…(汗)

 2004・3・10 月堂 亜泉 捧

 

 

 

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