あと一時間。



その時間がやってくるまで。


空白の存在まで。



























0の量






























「…一番乗りか?」



『まだ』人通りのあるポートアイランド駅。


いや、どちらかといえば、目的もなく彷徨っている人が大半なのだろう。


そうでなければ、あのスーツ姿の男性のように足早に家路を急ぐ。




早く、家に帰ったほうがいい。



いくら知覚できないとはいえ、その時間があることは確かなのだから。




「…巻き込まれない方が、幸せだからな……。」

「…真田先輩?」



遠慮がちに後ろから声が掛けられる。


気配でわかる人物。振り返ると、俺の想像通りの姿で、彼はそこにいた。


ポケットに手を突っ込み、少し猫背気味でヘッドフォンをする姿は、どこか気だるげだ。


ヘッドフォンを外しジャケットのポケットにねじ込み、ゆっくり歩いてくる。




「早いんですね。」



少し鼻にかかる甘めの声。幼さは残るが端正な顔立ち。


彼の魅力は不思議だ。



普通の学生として存在を周囲に溶け込ませることが簡単にできる割に、


一度でも見ると忘れられない、どこか惹きつけられる、魅力。



「ああ。ロードワークが予定より早く終わったからな。」

「タルタロスへの招集がかかってからもロードワークしてるんですか?」



感情の起伏をあまり見せない彼が、小さく目を見開く。



「それは当然だ。多少身体を温めておかないとな。」

「さすが真田先輩。俺はそんなことしたらバテそうです。」

「体力は俺よりないからな、は。」



けれど…。


きっとこいつは俺よりもよほど凄いものを持っているのは分かっている。


本来は一つしかない「もう一人の自分」…俺たちが『あの時間』に活動できるための力。




ペルソナ。




それがこいつ…には複数ある。


しかもその複数のペルソナを自在に使い分けることができるらしい。



「だから、頼りにしてます。」

「え?」

「俺はペルソナをたくさん持っていて、皆を助けることも、ペルソナで攻撃することもできるけど…。

 真田さんみたいに体力があったりするわけじゃないから、すぐ疲れるし。

 だから、頼りにしてます。」



たまに、彼はこういうことをしてのける。



普段は無口で何事にも無関心なように見えて、その実人の感情の機微をよく察知していて、

その時相手が一番欲しい言葉をさらりと言ってのける。



「なら任せておけ。お前が疲労で動けなくなっても、担いでいってやる。」

「あはは、それは心強いですね。」


二人で他愛ない会話をしながら、ゆっくりと道を歩く。


ここへ来るのは今日で二回目。


一回目は普通の登校。


二回目は出撃。


この生活ももうずいぶん経つが、ここ最近は少し勝手が違う気がする。


美鶴とシンジと三人の頃よりも賑やかで、決意もまた一段と違う気がする。



「まだ少し早かったな。影時間まではまだ三十分近くあるぞ。」

「でも…普段は音楽聴いているせいかな。俺、いつもは三十分以上前には着きますよ。」

「そんなに早くに集合していたのか?」

「まぁ…夕飯を取るぐらいしかやることがないんで。音楽聴きながら待って…夜の校舎からタルタロスに変わる様を見ているんです。」



だから彼はいつも一番乗りでいるのか…と感心する。



「お前の爪の垢を煎じて順平に飲ませるべきだな。」

「そうですね。順平は遅刻常習犯だから…。」



そう言いかけた途端、後ろから騒がしい足音がする。



「おーい、っ!あれ、真田サンも一緒?」


噂をすればなんとやら、か。話に出ていた本人がやってきた。


「順平、珍しいな。こんなに早く来るなんて。いつも集合時間ぎりぎりなのに。」


俺がそういうと、自慢げに胸を張り


「へっへーん、やっぱここは俺様も出来るってとこを見せとかないと!」

「…時計を見間違って早く来たとかじゃない?」

「うっ!お前なんでそれを知ってるんだ!?」

「…そういうことか、感心して損したな。」

「ひ、ひでー、誘導尋問かよ〜。」



同級生同士の他愛もないじゃれあいを見て、俺はほんの少しほっとした。


この二人なら、きっと俺とシンジみたいにすれ違ったりはしないだろう。

それでも、見守っていてやりたいと思う。



「なんだ、今日はみんな集合が早いな。」



こつこつとブーツのヒールを鳴らしながらいつものスタイルで美鶴がやってくる。


その後ろからは岳羽と山岸が一緒にやってきた。



「ホントだ。順平まで来てるし。」

「珍しいね、順平君がこの時間にいるなんて。」

「天変地異の前触れとか?」



岳羽がそう揶揄すると順平が文句を言うより早く


「ワンッ!!」

「コロマルは違うって言いたいのかもしれないですよ?」



コロマルを連れた天田がやってくる。一緒に来たアイギスも



「私が加入してから順平さんが集合時間に来た回数は全体の…。」

「ああもう、皆して俺をいじめて楽しいのかー!?」



ばたばたとじゃれあいが始まる。


そこからいち早くさりげなく抜けたがやってくる。


美鶴と俺の近くにきて、一言。



「ここにいるみんなは誰も、巻き込まれただなんて思ってませんから。


 自分の為に戦ってるのだとしても、それが皆の為になってるなんて最高じゃないですか。


 過去の事とかよく分かんないぶん、突っ走るんで。」



やっぱり彼は、人の感情の機微に敏感すぎるほど敏感だと思う。


俺は礼の代わりに、の髪をくしゃくしゃっと撫でた。



影時間…。



24時間から外れたこの時間を、このメンバーでいられること。



それは何だか、苦行の中に見出す幸せのようだった。



その幸せは大きいからこそ。




きっと、この試練をも乗り越えて行ける。





そう、確信した。






























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後足掻き

ハヒッ、口調メタメタでごめんなさい!真田と主人公のラブラブ空間をぶち壊しにやってくるのが


順平なのは月堂の趣味です(笑)天田は基本的に真田に憧れてるのでそこで露骨な邪魔はしない。


真田のいないところで主人公をスナイプしようとしているわけです(勝手な妄想)


しかし、女性陣の扱いがひどいな…。美鶴は活躍させるよ!ちゃんとしたSSでね!(え)



          2008.12.29  月堂 亜泉 捧





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